和の世界は終わる日記
サンジスキーの管理人、ゾロの扱いが酷くてすみません。 読者様参加型小ネタやってます。カテゴリ「参加型小ネタ」よりどうぞ。
ほんとは16日 と バトン
- 2008/04/09 (Wed) |
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バトンの続きです!
●毎日自動改札機にひっかかる[サンジ]
「もう嫌だ」
そうひと言、低くかすれた声で呟いて、いつ拭かれたかわからないようなプラスチック製の簡素なテーブルに両肘をつき、普段から猫背の背中を更に丸くして、サンジは死んだ魚のような目で向かいに座るゾロを見た。心なしかサンジがいつも「戦闘服」と呼んでいるスーツもよれよれだ。
開かれっ放しのサンジの口から、タバコの煙がもわもわと、まるで魂が抜けていくかの様に拡散していく。放っておいたらヨダレまで垂らしそうな生気の抜けた顔だ。
ゾロとしては、こんなタバコ臭く煙たく、若者同士のどうでもいい会話や下卑た笑い声がうるさい全国チェーンのコーヒーショップ2階喫煙フロアからは、さっさとオサラバしてしまいたいのだが。
「なんで……!なんでオレだけ毎日毎日自動改札に引っかかるんだ……!!」
はあああ、と深いため息を吐いたサンジはまだまだ立ち上がる気配も無い。しょうがなく、ゾロは紙コップの冷めかけたコーヒーを啜った。
部署は違うが同期入社のサンジは、偶然にもゾロの近所に住んでいて、同じ駅を利用しているので時間が重なった時には一緒に出社することも珍しくない通勤仲間である。
最近、出勤時にプラットホームでサンジに会うと、開口一番眇めた目で睨まれ「今日もだ」と言われることが日課になっていた。この駅の自動改札機は最近、何故か毎回サンジをシャットアウトするらしい。
そして今日、仕事終わりに会社のロビーでばったりと顔を合わせた時、コーヒーでも飲もうぜと誘われたのだが。
「そんな落ち込むなよ。死ぬわけじゃあるまいし」
慰めようとそう言うと、サンジはがばりと顔をあげて青い目をかっと見開いた。ダン!!と拳をテーブルに叩きつける。
「てめェには!!わからねェのか、オレの苦しみが!!」
サンジの体から怒りのオーラが立ち昇っている。
あまりの迫力にゾロもちょっと仰け反った。
「期限切れの定期を投入してるならともかく、オレの定期はきっちり今年の9月まで使える6ヶ月もんだ。きっちりニコニコ現金払いで購入だ。パ○モだのス○カだのわけのわからねェもんでもねェ。それなのに毎朝毎朝オレの顔見りゃあの忌々しい、“ピンポーン”って音つきでバタンバタンと閉じやがって。お陰で最近じゃ会社のエレベーターの到着音までがオレの逆鱗に触れるんだ。毎日毎日行き帰りきっちり閉じるたァどういう了見だ。帰りはまだ良い。問題は朝だ。ただでさえみんな殺気立ってる通勤ラッシュ時に、“ピンポーン、バタン”!!慌てて定期を取って振り返ると、皆さんたいそう迷惑そうな顔でオレを睨んでやがる。オレが悪いんじゃねェっつーの!!ああ、しかし野郎からの視線なんかどーでもいいさ。あいつらが困ろうがイラつこうが屁でもねェ。いちゃもんつけてきやがったら蹴り飛ばす。だが、今日はとうとう、オレの真後ろにいらっしゃった、香水の香りもかぐわしい巻き髪の美しいレディに……!」
そこでサンジは、ナイフで人を刺して我に返った殺人犯役の俳優の様に、両手を体の前でブルブルと震わせ叫んだ。
「舌打ちされた!!舌打ちされちまったんだよおおお!!その時のオレの気持ちがてめェにわかるかゾロよ!!」
……帰りたい。
そう思ってしまったゾロは、ついつい今の気持ちを正直に口に出してしまった。
「自動改札って磁気で読み取るんだったか?てめェがそのわけのわからん電波放ってるせいじゃねェのかよ」
「あの扉が閉まる度に世界から拒絶されてる気がする……!!」
ゾロの言葉が聞こえたのか聞こえてないのか、サンジは再びテーブルに突っ伏した。
「出勤前のお化粧したての麗しいレディ達が、オレのこと迷惑そうに汚いものみたいに見るんだ……!こんなのオレ、もう耐えられねェ……!」
両手を拳にして、どん、どん、とテーブルを叩く。
「……有人改札通りゃいいじゃねェか」
「それじゃあオレが機械に負けたことになるだろうが!!大体な、日本人は機械に頼り過ぎなんだ。オレのイナカじゃ近くの駅はいまだ無人駅だ。電車降りたら運転席から顔出した運転手さんにキップ渡したり定期見せたりするんだよ。それがコミュニケーションってもんじゃねェのか!日本はそんな温かみを一体どこに置いてきちまったんだ……!」
そうして、えぐ、えぐ、としゃくりあげ始めた。
……もう一杯コーヒー買ってくるかなーとゾロがぼんやりしていると。
「……決めた」
眉間にくっきりと皺を寄せて、涙目のサンジが、顔をあげた。
「もういい。オレ、明日からバス通勤にする」
「は!?」
驚いて、声が裏返ってしまった。
「毎朝毎朝、バスの運転手さんに定期見せてコミュニケーションとる」
「って、お前、朝からバスなんか乗ったら渋滞で遅刻するに決まってんぞ?」
「早起きして始発に乗る」
「始発!?なんでそんな極端なんだ!定期の残りはどうすんだよ!」
「駅員シメ上げて払い戻しさせる」
「めちゃくちゃ言うな!それに、バスだって今はなんか機械でピッ、ピッ、ってやるじゃねェか知らねェのか!?」
「じゃあ自転車だ!!自転車で通う!!」
「会社までどんだけ時間かかると思ってんだ!」
「うるせェ!!とにかくオレはもう嫌なんだ!!」
そう言うと、とっくに冷めているだろう紙コップのコーヒーを取上げ、ぐびぐびと酒を飲むかのように飲み干してしまった。
焦ったのはゾロだ。
実は、とんでもないことだが、ゾロは、毎朝毎朝一緒に会社に通ううちに、このアホな電波サンジにうっかり惚れてしまっていたのだ。
サンジとは部署の違うゾロにとって、朝の同伴出勤タイムはある意味幸せタイム、サンジと触れ合える貴重な時間だったのだ。だいぶ仲良くなってきたので、そろそろ、「近所なことだしうちへ遊びに来ねェか」等と誘っちゃうタイミングを計っている最中だったのだ。
それが、バス通勤に変えられてしまったら。
ゾロは、自宅から最寄のバス停がどこにあるか知らない。結構遠い、ということだけは近所の人に聞いて知っている。長く歩く事が問題なのではない。ゾロは、極度の方向音痴なのだ。バス停を覚えるまでに半年はかかる自信がある。しかも始発。自慢じゃないがゾロの睡眠時間は1日10時間以上必要だ。今だってギリギリなのに、始発なんてそんなの起きられるわけない。自転車も同じ理由で却下だ。そして方向音痴はここでもネックだ。サンジと一緒の出勤ならともかく、帰りはひとりで家に辿り着ける気がしない。無理だ。
じゃあ、このままサンジが通勤手段をバス他に変えてしまったら……!!
サンジに会える時間がなくなる……!!!
そんなのはダメだ……!!
今度は、ゾロが双眼をかっと見開いた。
サンジの両手をがっと取り、握り締める。
「明日は、改札で待ち合わせようサンジ!」
「あ?」
サンジが訝しげにゾロを見る。
「オレが、絶対にてめェを、無事に改札通してやる……!!」
朝7時40分。○○駅。
慌しく人々が改札口に吸い込まれていく。
サンジは、後ろに立つゾロを不安げに振り返った。
心配するな。
そう気持ちを込めて、ゾロはゆっくりと頷いた。
サンジが、緊張した面持ちでこくりと頷き返し、改札口に向かう。
ゾロは、サンジが定期券を投入しようとしている改札機を睨んだ。
機械のくせにサンジを苦しませ、オレの恋路を邪魔しようとしてくれやがってこの野郎。人間様を甘く見るな。
深く深呼吸をし、足を開いて構える。
毒をもって毒を制す。
電波には電波だ。
口の中で、ゾロは小さく呟いた。
「一刀流……!」
平卦降魔……!!!!
大きく、ゾロの体が踊った。
サンジの定期券が、改札機に吸い込まれる。
一瞬、全ての音が消えた。
ざわざわと周囲の音が戻ってきた時、サンジの体は、改札機の向こうにあった。
「ゾ、ゾロ……!!」
機械を通って飛び出してきた定期券を取り、サンジが信じられないといった顔で振り向く。
やった、とゾロは小さく胸の前で拳を握る。
「ゾロ!」
サンジが笑顔で手を振る。
ゾロも笑顔でサンジに歩み寄る。
ゾロは決めていた。
サンジがちゃんと改札を通れたら、これからも、毎朝一緒に出勤したいと伝えようと。
きちんと好きだと告白しようと。
「サンジ!」
サンジに向かって、手を伸ばす。
ピンポーン。
バタン。
「あ」
呆然と立ち尽くすゾロの後ろに居たのだろう女性が、隣の改札機を通り間際、眉間に皺を寄せてちらりとゾロを見ていった。
そんな視線はどうでもいい。
サンジに他人のフリをされた事の方が比べ物にならないくらい痛い。
一歩も動けないゾロに、改札口から顔を出した駅員さんが、
「お客さん、キップ入れなきゃ通れないよ」
と、言った。
おわり
く、くだらない……!!
しかしこれは、無駄に長くなった割には書くの早かったです(笑)
微妙な上に無理矢理なオチですみません……。
ほんとは駅員のギン(笑)がサンジさんの困る顔見たさに毎朝手動で……と思ったんですが、確かどなたかの日記で、このバトンが回答されてて、ゾロが手動でやってたら面白いっておっしゃってたんですよ。なので止めました。
一体どうしてサンジはひっかかり、なんでゾロはそれを打ち破ることが出来たのか結局のところはわかりません(笑)
因みに無人駅なのは私のイナカでーす!
高校入ってできた友人に、「○○ちゃんが使ってる駅って無人駅ー?」って聞いたら、笑顔で、「止めてよそんなイナカじゃないよ!」と言われました(笑)え……、うち、無人駅……。(屋敷の外に取り残されたホグバックの気持ち)
拍手ありがとうございましたー!!
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